オーバーペースでマラソンが完走できない理由

持久力のあるランナー?

皆さんは「持久力がある」、「持久力がない」ランナーの違いを知っていますか?
そりゃ、スタミナがある人が持久力のあるランナーなんだろう!
と思いますか?

そもそも「スタミナ」、って何でしょう?
ゲームだったらスタミナの数値が100とか50とかで較べられるかもしれません。
しかし、マラソンはゲームではありません。

実は、人間が元々持っているエネルギーの量にそう大きな差はありません。
フルマラソンサブ3の人も100キロウルトラマラソンサブ10の人も、走り始めたばかりの初心者ランナーと蓄えているエネルギーはそう変わらないのです。

人が持つ糖質エネルギーには限りがある

ただし、ここで言うエネルギーとは糖質(グリコーゲン)のことです。
実は運動時に消費するエネルギーには糖質と脂質(ケトン体)の2種類があります。

糖質は肝臓に100gほど、筋肉に400gほど蓄えられています(体の大きさによりますが)。
これでどのくらいのエネルギー源になるかというと、糖質は1gあたり4kcalのエネルギーになるので、人間は合計2000kcalほどの糖質エネルギーを持っていることになります。

そしてマラソンで消費するエネルギーは…?
消費カロリーは「体重(kg)」×「距離(km)」なので体重60キロのランナーがフルマラソンを走ったら
60 × 42 =2520 kcal

となります。
つまり、全然足りません…これではウルトラはおろかフルマラソンも完走できない…!
と、言う訳で、脂肪の登場です!

脂肪は無限のエネルギー源!

脂肪君は1gあたりのエネルギーは7kcalと、糖よりも高エネルギー。
そして特筆すべきはその貯蔵量。
なんと無限です!
もちろんフルマラソンやウルトラマラソンをする上で、ということですが。

先ほどの式に当てはめると、体重60kgのランナーが100kmを走ると

60 × 100 = 6000kcal
です。

エネルギーの話をランナーさんとしていると、よくこの糖質と脂肪の話になります。
で、
「ウルトラランナーは脂肪をたくさん使って走っているので100kmくらい簡単に走れるんですよ」
というと…
「ずっきーさんにそんなに脂肪があるようには見えませんが…」
という流れによくなります。

ここで考えてみましょう。
100キロ走ってもたかだか6000kcalです。
6000kcalって多い気がしますが、脂肪に換算すれば1kgもないのです。

例えば私の場合、体重60kg、体脂肪10%くらいなので確かに痩せていますが…
それでも脂肪は6kgあります。
フルマラソンどころか100キロウルトラマラソンも余ります。

つまり脂肪を使って走れれば100キロですら余裕で完走できるのです。



オーバーペースでは必ず失速する

ただ、もちろん話はそこまで単純ではなく、人間は糖と脂肪の両方を使って走ります。
そして脂肪は絶対無くなりませんが、糖は枯渇すると走れなくなります。
当然です。
生きていく上で必要なエネルギーが無くなれば生物としてピンチです。
走っている場合ではありません。

そして、運動中に糖と脂肪がどのくらいの割合で使われるのかというと、それは運動の強度によって変わってきます。
100m走などの無酸素運動では、ほぼ糖のみが使われます。
マラソンなどの有酸素運動では負荷によって割合は変わってきます。
①ゼーゼー息の切れるようなペースでは糖:脂肪が8:2くらい。
②気持ちよくペースを上げているような状態では7:3くらい。
③もっとゆっくり、余裕でお喋りのできるようなのペースでは6:4や5:5くらい。

フルマラソンでよく罠にはまるのが②でしょう。
消費カロリーの7割が糖だとすると…
体重60キロのランナーが30キロまでで消費するエネルギーは約1800kcal。
その7割、糖の消費は1260kcal。
貯蓄グリコーゲンが2000kcalだとすると。残りは740kcal。
740 ÷ 2000 = 0.37 37%です。
※これは私の考えですが、グリコーゲンが残りこのくらいになると、脳が走るなと命令を出します。そして急激に減ったときほどストップの命令が強いのではないでしょうか?

これがフルマラソンの「30キロの壁」の正体です。
途中まで苦しくないのに突然脚が動かなくなるアレですね。こうなったら大幅なペースダウンは避けられません。
しかし、これは仕方のないことなのです。
限りある糖質エネルギーを無造作に使ってしまうのですから必ずこうなります。

ハーフでぱったりという人はあまりいませんが、フルだとよくいるのはこういう理由です。
30キロまでは適当に走ってもエネルギーが持つのです。
30キロ未満と30キロ以上は同じマラソンでも別の競技だと思った方が良いですね。

30キロで止まるランナーさんと話をするとよくこんなコメントが…
「練習が足りなかった」
「持久力がない」
「自分は根性がない」
しかし、そもそも生物学的に不可能なペースで走っておいてこのコメントは無責任なのです。
足りないのは実力ではなく「組み立て」なのであります。

と、言う訳でフルマラソンの前半は脂肪がもっと高い割合で消費されるようなゆっくりなペースで走らなければいけません。そうすれば後半はペースを上げていっても脚は持ちますよ。
前半のペースはどのくらいがいいねん?
と分からない人、そういうのを突き詰めるのが練習でしょう(笑)
気持ちよくに走れるペースよりさらに抑えて、としか言いようがありません。そのペースは人それぞれです。頑張って探しましょう。

冒頭の「持久力のあるランナー」とは、同じペースで走っても脂肪の消費割合の高いランナー(つまり、そのペースでより長い距離を走ることが出来る)ということになると思います。

そしてそして、ウルトラマラソンではフルマラソンよりもさらにペースをもう一段遅くしなければいけません。
当たり前ですがオーバーペースでは100キロは絶対持ちません。

仮に糖:脂肪が5:5で消費されたとしましょう。
先ほど述べたとおり、100キロ走れば体重60kgのランナーなら6000kcalの消費です。
糖と脂肪が5割ずつ使われるのなら、糖の消費は3000kcal。

うーむ、足りませんね!
そこでエネルギー補給の話になります!
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暑い時期のマラソンは涼しい朝に距離を稼ぐ?

近年は本当に暑いです。
岡山でも7月8月は連日35℃超えています。

暑くて走りにくいと考えてしまいがちですが、暑ければ同じスピードでも負荷が大きい訳なので練習効果が大きいかもしれませんよ。
まあ前向きに捉えて頑張っていきましょう。

今回のテーマは「マラソンでどうせ暑くなったらペースが落ちるから、涼しい朝のうちに速いペースで走っておく」
が正しいか考えてみましょう。

いきなり結論から言うと「正しくありません」
どうせ暑くなったらペースが落ちる…こちらはもちろん正しいです。
しかし、涼しいうちに速いペースで走るは微妙です。

もちろんウルトラマラソンでは前半より後半の方が遅い人の方が圧倒的に多いですし、それが間違った走り方と言うつもりはありません。
しかしですね。どのような距離であろうがどのような気温であろうが「適正なペース」というものは存在します。
そしてウルトラマラソンできちんとペースコントロールできるのは、よっぽど走力のある人以外は「序盤」のみです。

だから前半を適正ペースで走っていて、後半は自然とペースが落ちました。
というのは良いのです。そう言う意味で前半が後半より「速いペース」というのはある種当然です。間違っていません。

しかし、後半の失速を見越して前半稼ぐというのは無謀です。
例えば気温のことは考えずに、まず「前半100の力で走れば後半80の力で走り切れる。」という状況があったとします。
もちろん前半100というのはその人の適性ペースだという前提です。
ここで「前半105で走る」場合、後半は「良くて70」です。
トータルでは絶対に遅くなります。適正ペースを超えてしまえばそうなります。

そして暑いからと言って「前半105」でいけば…後半は70どころではありません。
60にでも50にでもなります。
大げさに聞こえるかもしれませんが実際にそうです。
ウルトラマラソンの下げ幅の奥深さを決して舐めてはいけません。

14時間制限の大会を前半5時間や6時間で走れるランナーが、ギリギリの時間で完走したり完走できなかったりするのです。
その人に強い脚が無かったのかもしれませんが、50キロは走り切れるのにそこまで落ちるというのは組立てそのものが間違っていた可能性は十分あります。

さらに怖いのはオーバーペースで走ると胃が気持ち悪くなる可能性が高いのですが、暑い時期にそれをするとさらに高い確率で胃の不調がやってきます。そうなると食べられない、飲めないでハンガーノックや脱水、熱中症などの二次被害がやってきます。
しかも走れなくなれば暑い中トボトボ歩き続けることになるかもしれません。これもまた辛い…

どのみち、オーバーペースは25キロまでしか通用しません。
フルマラソンですら後半で失速する人がいるのです。
人間の身体はそのように出来ています。

ウルトラマラソンなどという長丁場で、さらに暑いとなれば普段よりさらに慎重にペースを落として走らなければ完走は見えてきません。

私が何故そんな自信満々に断言できるのか…
それは過去に同じことをして失敗したことが何度でもあるからです…
言っておきますが失敗の経験数ではみなさんに引けは取りませんよ!